パーソナルトレーナーは、なぜ自分の価値を安く見積もってしまうのか
パーソナルトレーナーとして働き、そしてトレーナーを雇う立場になって、ずっと感じ続けていることがある。トレーナーは、自分の価値を安く見積もりすぎている。
かく言う自分も、駆け出しの頃はまさにそうだった。なぜトレーナーは自分を安売りしてしまうのか。その理由の多くは、本人の欲がないからでも謙虚だからでもなく、この仕事の構造そのものに埋め込まれている。今日はそれを、自分の経験も交えて整理してみたい。
好きで、当たり前にできてしまうから
トレーナーになる人は、そもそもトレーニングが好きな人が多い。運動も食事管理も、自分にとっては楽しくて、当たり前にやれてしまうことだ。だからこそ、その専門性の価値を自分では低く感じてしまう。「こんなの、やろうと思えば誰でもできるでしょう」と。
でも実際には、頭では「やらなきゃいけない」と分かっていても、自分ひとりでは続けられない人が世の中の大多数だ。自分が当たり前にできることほど、その価値は自分では見えにくい。トレーナーの安売りは、まずここから始まる。
「手残り」を計算しないまま値付けしてしまう
もう一つは、ビジネスの経験を積まないままこの仕事に入る人が多いことだ。専門学校を出て、そのままトレーナー職に就く。一般的な社会人経験を経ていないと、「この価格でやったら、最終的に自分の手元にいくら残るのか」という計算がそもそもできない。
しかもトレーナーは、体一つあればできてしまう仕事だ。大手の施設に所属して売上の何割かを納める、レンタルジムを1時間いくらで借りる——そのくらいの変動費しかかからない。原価が軽いぶん、「まあ働けば生活はしていける」くらいの感覚で値段を決めてしまいやすい。
安いケースだと若くて感じのいいトレーナーが、1時間3,000円や4,000円でレッスンをしている。それだと、どれだけ働いてもまとまった売上にはならない。それでも目の前は回ってしまうから、そのまま続けてしまう。
「値下げで集客」には出口がない
駆け出しの頃、一番やりやすい戦略は値下げだ。安くすればお客さんは来る。これは一定、正しい。
ただ、安売りには出口のない構造がある。単価が低いぶん、本数をたくさんこなさないと生活できない。すると一日中レッスンで埋まり、勉強したり、集客の仕組みを整えたりする時間が取れなくなる。
集客できないから安くしている、なのに安いから忙しくて集客に手が回らない——この悪循環にはまると、安売りを続けるしかなくなる。経験は積めても、そこから抜け出せない。
トレーナーの良し悪しは、お客さんに分かりにくい
これが一番根深い理由だと思っている。
トレーナーの良し悪しは、お客さんから見て、とても分かりにくい。飲食店なら、食べれば美味しいかどうかがだいたい分かる。マッサージも受ければ分かる。美容師も、切ってもらって数時間後には、良かったか悪かったかが分かる。
ところがトレーニングは、腕がいいのか、ちゃんと勉強しているのか、お客さんにはなかなか判断がつかない。結果が出るまで時間がかかるし、その結果もトレーナーの実力だけで決まるわけではないからだ。
この「分かりにくさ」が、安売りの温床になる。分かりやすい実績や知名度がないと、「安くしないと選んでもらえないんじゃないか」と思ってしまう。
そして、この分かりにくさは逆側からも効く。どれだけ知識や経験が豊富でも、誰が見ても「こっちの先生の方が上だ」と一目で分かるわけではない。だから、その実力を理由に5倍、10倍の料金を取るのは、実はかなり難しいのだ。
実際、パーソナルトレーニングの価格には、見えない天井がある。実績や有名な名前があれば話は別で、自分の知る範囲でも、1時間30,000円でレッスンをしている先生はいる。標準の5倍以上だ。
ただ、それはごく一部に限られるし、内容もアスリートが単発で受けに来るようなケースが多い。毎週通うような一般的なパーソナルトレーニングで、1時間20,000円を超えるのは、正直かなり稀だと思う。
他の業種ならもう少し価格差が開くはずのところを、トレーナーは「何が違うのか分かりにくい」がゆえに、上の方の値段がつきにくい。
自分が7,000円を10,000円にしたとき
自分自身、駆け出しの頃は出張パーソナルをメインにやっていて、60分7,000円で始めた。ありがたいことに、2年もたたずにお客さんでいっぱいになった。
そこで思い切って、1時間10,000円に上げた。出張パーソナルと考えれば、それでも割安な方だと思う。正直、お客さんが減るかもしれないと不安だった。ところが蓋を開けてみると、むしろ申し込みは増えた。市場自体が伸びていた時期という外的な要因もあったとは思う。それでも、約1.5倍に上げても客足は変わらなかった、という事実は残った。
7,000円は格安の部類で、10,000円でようやく標準的な範囲に着地した、という感覚だ。
もしあのまま7,000円で続けていたら、薄利でずっと苦しかったと思う。適正な価格にして予約を満席にできたことで、経営はぐっと楽になり、そこで貯めた資金が、自分のジムをオープンする次のステップにつながった。安売りのままだったら、そのステップアップも相当大変だっただろう。
安売りは、自分と業界の首を絞める
どの業界でもそうだが、安売りは結局、自分を苦しめるだけで終わることが多い。かつての牛丼チェーンの値下げ競争のように、みんなで利益率を削り合って、業界全体で苦しくなる。トレーナーの世界も、これと同じ道をたどりやすい。
値段は、「働けば生活できるか」で決めるものではなく、「事業として手元にいくら残るか」から逆算して決めるべきだと思っている。そして本来は、費やす時間の長さではなく、お客さんに届ける変化や価値に対して値段をつけるものだ。時間で売っている限り、自分の体力と稼働時間が、そのまま売上の上限になってしまう。
安売りは、目先のお客さんは呼べても、勉強する余白も、次の一手を打つ余白も奪っていく。逆に、適正な価格で満席にできれば、そこに生まれた余白が自分を成長させ、次のステージへ運んでくれる。自分の場合は、それがジムの開業だった。
そしてこれは、トレーナー一人ひとりの財布の話にとどまらない。トレーナーが自分を安売りし続ける限り、この職業はいつまでも「安い仕事」として見られ続ける。自分の価値を正当に見積もり、正当な対価を受け取ること。それは自分のためであると同時に、トレーナーという職業そのものの地位を引き上げることでもあると、自分は思っている。

