パーソナルジムは、なぜ増えて、なぜ潰れるのか
先日、ジムの倒産が過去最多ペースだというニュースが出ていた。
https://finance.biggo.jp/news/9fbbcce4-ac70-4f46-aa83-36df0e77de79
帝国データバンクの調査で、2026年1〜7月のフィットネスクラブ事業者の倒産は23件。このペースだと年間で初めて40件に達する可能性があるという。倒産した企業の6割超が業歴10年未満で、パーソナルジム業態も6件含まれていた。
供給過剰、値引き競争、人件費や集客コストの上昇——記事が挙げている要因は、どれもその通りだと思う。ただ、この業界を実際に運営している立場から見ると、この数字は「氷山の一角」でしかない、という感覚がある。今日は、なぜパーソナルジムがこれだけ増えて、これだけ潰れるのかを、自分なりに書いてみたい。
統計に「載らない」閉店の方が、はるかに多い
まず押さえておきたいのは、この倒産統計が拾っているのは、負債1000万円以上の法的整理だけだということ。つまり、個人事業として小さくやっていたジムが静かに閉店するケースは、ここにほとんどカウントされていない。
そして、自分が見てきた範囲で一番多いのは、まさにその「個人商店1店舗が、うまく立ち上がらずに畳む」ケースだ。これは数字に出てこない。
個人でやっている場合、オーナー自身が現場に立っていて、家賃もそれほど高くないことが多い。だから少し苦しくても、自分のお客さんを見ながら、足りない分は他店と業務委託契約を結んだり、アルバイトで補ったりできる。そう簡単には「倒産」しないし、ダメでも、ひっそりと店を閉じるだけだ。
自分が運営しているレンタルジムのシェアリングのプラットフォームでも、これは実感する。パーソナルジムとして営業していて空き時間がある店舗が、その時間を貸し出す形で参加してくれるのだが、それでもうまくいかずに閉店、掲載停止してしまうことは、けっこうある。水面下には、統計に現れる倒産の何倍もの閉店が、確実に存在している。このニュースを見て、6件閉店しているということではない。
個人店が潰れる理由は、ほぼ「立地」と「集客」だけ
では、その個人店はなぜ畳むのか。理由はかなりシンプルで、ほとんどが立地のミスか、集客の施策が苦手でできなかったか、その二つに集約される。
意外に思われるかもしれないが、指導力が低かったとか、評判が悪かったから、というケースは、自分の知る範囲ではあまり聞いていない。人柄も悪くなく、きちんと勉強しているトレーナーでも、立地を外したり集客ができなかったりで、うまくいかないことは普通にある。
これはもう、身も蓋もない話だ。良いトレーナーであることと、店が続くことは、別の問題なのだ。(この「集客ができるかどうかで決まる」という話は、独立の回でも書いた通りで、ここでも同じ構造が効いている。)
統計に「載る」倒産は、たいてい拡大路線の失敗
一方で、今回のニュースのように統計に現れる規模の倒産は、性質が違う。これは多くの場合、多店舗展開や、規模の大きなチャレンジに踏み込んだケースだ。
自分もこの手の失敗は、かなりの数を知っている。数店舗から10店舗前後、あるいはもう少し大きい規模まで、この10年以上のあいだに複数店舗を展開したジムのことは、だいたい把握している。やり方を見てきて、「何年か後になくなった」「全然うまくいっていないらしい」と聞くことは、本当に多い。倒産まで至らなくても、実質的に赤字店舗が多くて厳しい、FC中心だから本部はそこまでダメージが大きくないというケースも含めれば、かなりの数になる。
では、拡大路線はなぜ失敗するのか。大きく二つある。
失敗の構造1:根拠のない拡大
一つ目は、最初の成功を過大評価して、根拠なく大きな勝負に出てしまうこと。これがかなり高い確率で潰れている。
パーソナルジムは、1部屋・月10万円くらいのスモールスタートができる、とても良い業態だ。オーナー自身が現場に立ち、小さく始める。トレーナーが良かったり立地が良かったりすると、1部屋2部屋の規模で満員になるのは、決して珍しくない。
問題はその次だ。満員になった手応えと、少しかじったマーケティングの知識が合わさって、こう考えてしまう。「広告費を5倍にして、部屋もトレーナーも5倍にすれば、売上も5倍になるんじゃないか」と。次は5倍以上の物件を、家賃100万円などで借りてしまう。
でも、当然そう単純にはいかない。そもそも最初の成功が、たまたまSEOがうまくいっただけだったり、ブームの勢いに乗っただけだったりすることも多い。CPAをきちんと計算した再現性のある集客ではないのに、それを何倍にもできると思い込んでしまう。
実は、自分にも思い当たる。うちも、RIZAPなどでパーソナルジムのブームが来た2014年頃からは、広告費をかけなくても、運営していた2部屋の店舗が2つ、計4部屋が何もしなくても溢れるくらい、予約で埋まった時期があった。もしあのとき、自分が「この勢いならすぐに何倍にもできる」と思って一気に拡大していたら、間違いなく同じように傾いていたと思う。固定費の高い展開を、勢いだけで急いだ結果として。
この時期、自分は経営の才能があると思っていた。何もしていないのに満員の店舗を2つ作り、出張パーソナルも満員だったからだ。しかし実際にはそうではなかった。少しだけ慎重だった性格が間一髪自分を助けてくれた。
失敗の構造2:過剰な出店が、質と人を壊す
二つ目は、過剰な出店そのものが負担になるケース。
「トレーナーと物件さえあれば、コピー&ペーストで増やせる」——これは誰でも考えつくし、確かに理屈ではそうだ。でも実際には、採用にも教育にも相応の時間とコストがかかる。急いで出店を進めると、質の十分でないスタッフが紛れ込む。パーソナルジムはトレーナーの質そのものが商品だから、これはサービス低下だけでなく、商品自体の劣化を意味する。クレームや悪い口コミにつながり、店が傾く。
さらに、店舗が増えるほど目が行き届かなくなり、管理が難しくなる。不正が起きたり、退職時に顧客を引き抜かれたり、ということも起こりやすくなる。
ここで特に強調したいのが、退職のリスクは、時間差で来るということだ。退職は、だいたい入社から1〜2年のタイムラグで発生する。店舗数を一気に増やすと、同時期に採用したトレーナーが、1〜2年後に順番に辞め始める。社員同士の横のつながりがあると、一人が辞め始めると連鎖して、急に崩れることもある。
そしてパーソナルジムは、トレーナーに顧客がつきやすい。だから、トレーナーの退職はそのまま顧客の離脱につながる。仕組みで守っていないと、これはかなり起こりやすい。
このリスクを、拡大する経営者はかなり低く見積もっていると思う。理由は、日々の指標には現れないからだ。売上やセッション数を毎日見ていても、この損失は見えない。1〜2年後に誰かが辞めたときに、初めて大きな損失として顕在化する。しかもその損失幅——引き抜かれるのか、顧客がどれだけ離れるのか——は、起きてみるまで分からない。
他業種の「急拡大によるスタッフの質の低下」とは違い、トレーナーが商品であることから「商品の質の低下」というのも加わる。それに「退職による顧客の離脱」までくる3重苦なので、これが急拡大を難しくしている。
そもそも、まともにやれば潰れにくい業態のはず
ここで立ち止まって考えたいのは、パーソナルジムは本来、そう簡単には潰れない業態だということだ。原価がほとんどかからず、売上は前受けの回数券か月額で先に入る。キャッシュフローは良い。経費は極端に言えば家賃くらい。
それでも倒産するというのは、よほど無理なコスト構造になっているか、ユニットエコノミクスが成り立っていないか、事業計画そのものに問題があるということだ。裏を返せば、身の丈に合ったサイズで丁寧にやっていれば、そうそう倒産する業態ではない。
結局、潰しているのは「承認欲求」かもしれない
では、なぜ人は無理な拡大に踏み込むのか。ここは踏み込んで書きたい。
一つは、単純にもっと店舗を増やしたいという欲求だ。そしてこれは、経営者の承認欲求であることが多い。
少ない店舗で潰れるときは、豪華に作りすぎている——きれいでかっこいい店を作りたい、という欲求で初期費用をかけすぎ、回収できなくなるパターン。多店舗で潰れるときは、「もっと多く、すごい経営者に見られたい」という欲求で、身の丈を超えて広げるパターン。
やっかいなのは、店舗数の拡大は、外から見えるということだ。急拡大している経営者は「やり手」に見える。分かりやすい指標だからだ。でも、利益が出ているかどうかは、外からはほとんど見えない。だから承認欲求の強い経営者ほど、外から見える部分——店舗数や内装——を、きれいに大きくしたくなる。
この誘惑に負けず、地味でも、管理体制と利益の出る仕組みを固めて展開すること。結局はそれに尽きる。
これは、成熟市場のフェーズの話でもある
とはいえ、参入障壁が低い以上、「やり手に見せたくて拡大してしまう人」は一定数出続けるだろうし、倒産も一定は起こり続けると思う。
元記事は、月額固定制で運動習慣の定着を支えるサブスク型が生き残る、と締めていた。自分も、その方向性には同意する。ただ、モデルを変えれば助かる、という単純な話でもないと思っている。サブスクにしようが何にしようが、身の丈を超えた固定費を抱えれば潰れるし、堅実にやれば続く。本質は、収益モデルの流行より、その手前の姿勢だ。
そして何より、これは市場のフェーズの話でもある。成長市場なら、多少雑でも勢いで何とかなった。でもパーソナルジムは、もうある程度成熟した市場だ。誰がどうやってもうまくいく時代は終わり、きっちり丁寧にやらないと難しいフェーズに入っている。
倒産が増えているというニュースは、業界の危機のように見える。でも自分には、これは「雑にやれば淘汰される、当たり前の市場になった」というサインに見える。健康への需要そのものは、まだ伸び続けているのだから。

