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COLUMN『体がすごい人=人気トレーナー』は、思い込みだった

『体がすごい人=人気トレーナー』は、思い込みだった

トレーナーを雇う立場になって、「良いトレーナーとは何か」を、以前よりずっと真剣に考えるようになった。

現場でお客さんを教えていた頃にも、もちろん自分なりの答えは持っていた。ただ、採用する側に回ってみると、その答えがいくつも書き換わった。今日は、雇う側から見えてきたことを書いてみたい。

そもそも、良いトレーナーとは何か

大前提として、良いトレーナーとは「お客さんを目標に導ける人」だと思っている。

ただ、ここで言う目標は、体重を何キロ落とす、筋肉を何キロ増やす、という数値のことではない。その数値の奥に、本当の願いがある。痩せたいの奥にモテたいがあったり、健康でいたいがあったりする。筋肉をつけたいの理由も人によって違う。

そして厄介なことに、その本当の願いを、お客さん自身も言葉にできていないことが多い。だから良いトレーナーには、それを引き出すコーチングのような力が要る。数値目標を達成させることだけがゴールではない。ここが出発点だ。

では、それを実際にできるのはどんな人なのか。世間で「良いトレーナー」とされるイメージは、だいたい3つのタイプに分かれる。

タイプ1:競技者タイプ

自分でトレーニングを突き詰め、大会で活躍しているような実践者。すごい体をしていて、説得力がある。

採用する側としても、正直に言えば、有名な大会の実績があるトレーナーは今でも採りたくなる。最初に惹かれる部分ではある。だから、そこを目指す人の気持ちもよく分かる。

ただ、雇う側の経験を重ねて、このタイプは今はむしろ警戒するようになった。理由がいくつかある。

一つは、自分ができてしまう分、お客さんに厳しくなりやすいこと。「これくらいできる」「これくらいやっても怪我しない」という基準が、自分の身体を前提にしてしまう。でも、運動が苦手な人や関節が弱い人は、そもそも構造的に痛めやすく、怪我が起こりやすい。ここへの想像力が働きにくい。

もう一つは、現役の競技者だと、自分の大会や減量が優先になりやすいこと。勤務の途中で短時間に食事を挟む、トレーニング時間を確保しないと競技に支障が出る、といった事情で、勤務の融通が利きにくい場面が実際にあった。

タイプ2:研究者タイプ

派手な実績はなくても、論文を読み込み、理論に基づいて指導するタイプ。

正直に言うと、自社はこの路線がかなり好きだ。突き詰めていく姿勢は、指導の質に直結する。個人的にも一番好みのタイプかもしれない。

ただ、これも万能ではない。突き詰めるタイプは、一般のお客さんからすると、少しとっつきにくかったり、理屈っぽく感じられたりしがちだ。サービス業的な接客というより、少し硬い。その硬さが、コミュニケーションのすれ違いを生むことがある。

硬いだけならまだしも、お客さんを𠮟りつける、他のトレーナーを公に批判するタイプもいる。勉強をしている自身からくる傲慢さが出やすい。良いタイプだと思っているだけに、このような傾向は惜しいところだ。

タイプ3:サービス業タイプ

最初の2つと違い、人に教えること、人を目標へ導くこと自体が好きで、それを仕事にしているタイプ。明るく、話をよく聞き、励まし、盛り上げてくれる。

結論から言うと、多くの一般のお客さんにとっては、このタイプが結果的に一番良いことが多い。

もちろん、基礎的な知識と経験は前提として要る。そのうえで、楽しく話せる、頑張って盛り上げてくれる、目標に向かって励ましてくれる——こうした要素が、一般客の継続を大きく左右する。

アスリートなら、厳しく言われても「自分のためだ」「仕事だから」と耐えられる。でも、大半のお客さんはそうではない。だからこそ、サービス業としての接客の良さが効いてくる。

「当たり前のこと」ができるだけで、上位に入る

このサービス業的な良さは、特別なスキルの話だけではない。もっと手前の、当たり前のことができるかどうかが大きい。

きちんと挨拶する。約束を守る。遅刻しない。お客さんの質問に、後で調べて返すと言ったら、必ず返す。当たり前のことばかりだが、これができないトレーナーが、実際にはかなり多い。だから、これができるだけで信頼されるし、それだけで「良いトレーナー」に入ってしまう。

採用の面接でも、実はここを見ている。たとえば日程調整。「この日しか空いていません」と自分の都合を軸に出してくる人なのか、「この日からこの日まで空いています、何時でも合わせます」と相手に選択肢を渡せる人なのか。この一点に、お客さんへの向き合い方がそのまま出る。自分の都合を優先したいマインドか、相手に合わせられるマインドか。面接の日程調整のやり取りだけで、けっこう見えてしまう。

重みづけは、接客>知識>実践

理想を言えば、3つのタイプの要素がバランスよく入っている人がいい。実際、全部が高いレベルで揃っている人もいる。ただ、あえて重みづけをするなら、自分の答えははっきりしている。サービス業としてのスキルが一番、次に知識、最後に実践経験だ。

実践は、何度か大会に出た程度で十分だと思っている。有名な大会での優勝はいらない。目安として、体重比でベンチプレスが1倍、スクワットが1.5倍、デッドリフトが2倍あたりで10回できる——このくらいの水準ならほとんどの場合は努力で足りる。

体型でも挙げやすさは変わるので、絶対視する必要もない。大事なのは、自分でもある程度のレベルまでは筋肉をつけたり絞ったりを何度か経験し、「体重が落ちにくくなったときにどうするか」など局面への自分なりの答えを持っていること。その深みが出れば、一般向けのパーソナルには十分だ。毎年大会に出ていて順位の付くような選手を10とすれば、3くらいで構わない。

知識は、実践よりもう一段高いレベルが要る。ただし、資格を持っているだけでは足りない。それは10段階で言えば1くらいだ。そこから、セミナーに継続的に通っている、勉強を続けている、という積み重ねがあって初めて意味を持つ。

そして、それ以上に接客・サービス業としての力が要る。これは要するに、一般的な社会人としての基本でもある。トレーナーはここが弱い人が多いからこそ、差がつく。

一番大事なものが、一番軽視されている

ここに、この業界の大きなねじれがある。

トレーナーを目指す人の多くは、競技者タイプか研究者タイプの方向に進もうとする。自分の体を鍛え上げるか、知識を突き詰めるか。一番大事なはずの接客は、後回しにされやすい。

理由は分かる。すごい体は目立つからだ。体がすごい人は、トレーナーとしてもお客さんをたくさん抱えているに違いない、とトレーナーの多くが思っている。でも現実は違う。SNSやYouTubeで発信して集客がうまい人は別として、メディアに出るレベルでもない限り、トップ選手でも、それだけでトレーナーとしてはお客さんが満員になるほどはなかなかつかない。お客さんは、そこまで実績を重視していないからだ。

しかも、すごい体に惹かれて来るお客さんは、「一度有名な人に見てもらいたい」という動機であることが多く、長く通い続ける優良顧客にはなりにくい。単発で終わりやすいのだ。

トレーニングが好きな人の世界と、一般のお客さんの世界とで、「良いトレーナー」の基準が大きくねじれている。すごければすごいほど選ばれるはず、という感覚は、作り手側の思い込みかもしれない。

雇う側になって一番変わったのは、この点の見え方だった。実績のある体に惹かれる自分は今もいる。でも、お客さんを長く幸せにするのは、たいてい別の力だ。

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