トレーナーを採用して、一番後悔したパターン
以前、「良いトレーナーとは何か」を雇う側の視点で書いた。今日はその裏側、「採用して後悔したのはどんな人か」を書きたい。12年以上この業界で採用を続けてきて、正直、失敗だらけだった。その失敗から見えてきたことを、思い切って具体的に書いてみる。
(先に断っておくと、これから書く事例は、特定の誰かの話ではない。長くやっていれば一通り経験するもので、業界では「あるある」の範疇だ。個人を責める意図はまったくない。あくまで、採用から得た学びとして読んでほしい。)
採用は、オーナーが必ずぶつかる壁
パーソナルジムのオーナーは、たいてい同じ道をたどる。自分で現場に立ち、お客さんがいっぱいになり、誰かに任せたくなって、初めてスタッフを採用する。
でも、採用の経験がないと、どういう人がどう働くのか、どんな性質の人がいるのか、まるで分からない。自分もそうだった。だから、失敗を重ねながら学ぶしかなかった。
実際にあった、後悔したパターン
一番わかりやすいのは、不正だ。レッスン数を水増しして、歩合報酬を多く受け取っていたケース。これは業界ではよく聞く話でもある。固定給をもらいながら、勤務中に大量の副業をしていたようなケースもあった。勤務はもちろん水増ししている。
不誠実な接客もある。お客さんに失礼な態度を取る。急に当日休む、遅刻する、質問に答えない。ひどいものだと、うちのやり方を否定して「自分ならこうやります」と自分を売り込む。あるいは、「いきなり筋トレはダメ、まず自分の整体やストレッチを受けた方がいい」とお客さんを自分の別サービスに誘導する、といったこともあった。
こういうケースは、分かった時点で、業務委託なら契約解除、社員でも場合によっては辞めてもらうことになる。頻繁にあるわけではないが、「ごく稀」と言えるほど少なくもない。長くやっていれば、必ず何度か出会う。
全員に共通していた、たった一つのこと
面白いのは、こうした「後悔したトレーナー」に、共通項があることだ。何をやらかしたかはバラバラなのに、行き着く先が同じなのだ。
彼らはたいてい、報告をきちんとしない。いつ誰のレッスンをしたか、といった記録をつけない。店舗の掃除もいい加減。全員が悪意を持っていたわけではない。ただ、「やらなくてもバレないだろう」という感覚が共通している。(実際には、他のスタッフや他店舗との違いで、たいていどこかでバレる。)
そして、これらを突き詰めて、今の自分の仮説はこうだ。共通しているのは、相手がどう思うかという視点に立てないことなのではないか。
なぜ「相手の目線」が、決定的なのか
パーソナルトレーナーは、お客さんの予定管理から、トレーニングの設計、実際のレッスンまで、一人でこなすことが多い。だからこそ、この「相手の目線に立つ力」が低いと、致命的になる。
たとえば、当日の1時間前に「すみません、今日休みます」と連絡する。お客さんはもう移動を始めているかもしれない。入会してまだ2、3回目なのに「決めた日程、変更してもいいですか」を繰り返す。お客さんも予定を組んでいるのに、自分の都合で、当日や前日に予約変更を頼んでしまう。
自分の感覚では、到底考えられない。一度決めた予定があるなら、後から入りそうな別の予定の方をずらす。どうしてもお願いする場合はゼロではないが、それはかなり配慮を要する例外的な状況だ。この当たり前の感覚が、ない人がいる。
そして、パーソナルジムは、この「個人のいい加減さ」が特に出やすい構造をしている。個室中心で、店長が横で常に見張っているわけではない。大きなフィットネスクラブなら周囲の目があって目立ちにくいことも、小規模なパーソナルジムでは浮き彫りになる。だからこそ、採用の入り口で見抜くことが、ものすごく重要になる。
面接で、何を見ているか
では、どう見抜くのか。派手な方法ではない。当たり前のことができるかを見ている。
まず、時間を守れるか。対面面接で遅刻する人は、かなりのNGだ。面接は日々あるものではない。その面接にすら遅刻する人は、お客さんとのセッションでも遅刻するし、自分の都合で急に休む。
オンライン面接でも、驚くほど傾向が出る。外を歩きながらスマホで参加して、電波が途切れる。風の音でよく聞こえない。トレーナーは移動が多い仕事だから、時間が取れないなら事前に断ればいい。それをせずに雑な環境で臨む——これは、そのまま顧客対応の雑さに直結する。カメラ越しに部屋が乱雑で、洗濯物が干してある、何故か飲み食いしているというのも同じで、細部に人柄が出る。ただ、猫を撫でていたトレーナーは採用してしまった。猫は仕方ない。
もう一つ、日程調整の仕方を見ている。これは以前も書いたが、「候補の日程をいくつか出してもらえますか」と言ったとき、なかなか送ってこない人、逆に「そちらが決めてください」と言う人がいる。お客さんに対しても、たぶん同じ対応になる。自分から幅広く候補を出せるか、どう調整しようとするか。このやり取りに、相手の目線に立てるかが表れる。
要するに、面接から採用までのあいだに、「この人は相手の視点に立てるか」を集中して見ている。
結局、人柄を重視した方が「安い」
もちろん、経験や実績、即戦力かどうかも大事だ。でも、採用を重ねて痛感したのは、人として信頼できるかどうかが、それ以上に重要だということだ。
「働きます」と言って全然働かない人は、本当にいる。これを防ぐために、システムでの管理やオペレーションでの仕組み化は、確かに必要だ。悪いことができない構造を作るのは、経営者の仕事の一つでもある。
ただ、ここが肝心なのだが——そもそも悪いことをしようとする人は、どれだけ仕組みを作っても、その隙を探して悪さをする。だから徹底的に管理し続けなければならず、そのコストは延々とかかる。これを規模の小さいうちからやるのはなかなか見合わない。
だったら、最初から「悪いことをしない人柄の人」を採る方が、結局は安い。仕組みは、良い人がうっかりミスをしないための補助線であって、悪い人を縛るための檻ではない。檻で縛る前提の採用は、雇う側も雇われる側も、ずっと苦しい。
良いトレーナーの条件として、以前「接客>知識>実践」と書いた。採用の失敗から学んだのは、そのさらに手前に、「相手の目線に立てる人か」という土台がある、ということだった。技術は教えられる。でも、この土台は、なかなか後からは変えられない。

