独立するトレーナーが、最初に間違えること
トレーナーの独立を、これまでいろいろな角度から見てきた。自分自身が独立した経験もあるし、独立していくトレーナーを送り出す側、そして辞めていくトレーナーを見る側も経験してきた。
その中で、独立してうまくいく人といかない人の分かれ目が、かなりはっきり出るポイントがある。技術でも知識でもない。スタートの切り方だ。
独立して最初につまずくのは、ほぼ集客
まず前提から。独立したトレーナーが最初につまずくのは、ほぼ例外なく集客だ。
パーソナルジムに勤めていると、集客は基本的に会社側が広告を使って行う。大手に勤めていた人なら、特に自分で何もしなくても毎日予約がいっぱい、という状態は珍しくない。すると、こう思ってしまう。「独立しても、すぐにお客さんは来るんじゃないか」と。
でも、まず来ない。これはどの業種でも同じで、お客さんは会社の看板と商品で選んでいる部分が大きいからだ。ただトレーナーの場合、実際にサービスを提供しているのは自分自身で、いわば自分が商品だ。だから「自分が良いから続けてくれている」という感覚になりやすい。この錯覚が、独立の判断を狂わせる。
看板がなくなり、広告を出す資本もない状態で、無名の個人として「お願いします」と言う。これは、勤めていた頃とはまったく別のゲームだ。
そして、楽な方法が存在してしまう
ここで問題になるのが、この業界には「楽な方法」が存在してしまうことだ。
大手で何十人、何百人と担当していれば、独立するときに声をかければ、10人くらいはそのまま来てくれる。もっと連れていく人もいる。前にいたジムと同じエリアに自分の店を出す、というケースもある。
そして、これで最初はうまくいってしまう。10人いれば生活はできる。20人いて、そこから紹介が回り始めれば、軌道に乗ることもある。ただ、業態の特性上、顧客数が少ない(週1回や2回通う顧客が多いので)ため、紹介の連鎖は途切れる可能性がある。300人くらい顧客がいる人気整体師や美容師とはボリュームが違う。
現実には、長く続けてくれそうに見えた人も、少しずつ辞めていく。連れてきた人数は、必ず減っていく。そのときに自前の集客手段を持っていなければ、当然行き詰まる。
一番まずいのは、同じことを繰り返せてしまうこと
行き詰まったとき、最悪の分岐がある。「じゃあ、また別のジムに業務委託で入って、そこからお客さんを連れてくればいい」——この発想になる人が、間違いなくいる。
やろうと思えば、できてしまうからだ。特にトレーナーが専任で担当する形態のジムだと、お客さんと二人で話が進んでしまえば、すぐに気づくのは正直かなり難しい。店舗が複数あったり、個室の場合はなおさらだ。
自分の顧客を連れてきて場所代を払って指導してよい、という運用にしている場合、外から連れてきた人なのか、そこで引き抜いた人なのかも見分けにくい。
自分たちも、フリーランスのトレーナーがジムを時間単位で使える「ジムカリ」を作った側なので、これは他人事として書いていない。仕組みが便利になるほど、楽な方法もやりやすくなる。それは事実だと思う。
ただ、はっきり見えていることがある。この方法を続けている限り、自分で集客する力は一生身につかない。
必死に集客を学ぶ動機が、永久に生まれないからだ。そこそこ食えてしまうし、しかも再現性がある。だから次も同じ手を使う。気まずくなればまた別のところへ移る。求人自体はどこにでもあるから、それも成立してしまう。
見えないところで、自信が削られていく
もう一つ、抽象的だが本質的だと思っていることがある。
自分で自分のやり方に後ろめたさがあると、うまくいっても「これは自分の実力で取ったものではない」という感覚が残る。それが少しずつ自信を削っていく。次の一手を打とうとしたときに踏み込めない。結果、そこそこ食べてはいけるけれど、そこから先には行けない。
悪いことをしていると長期的にうまくいかない、というのは精神論のようだが、この業界を見ている限り、かなり実感に近い。理由は道徳ではなく、自信の問題だと思う。
引き継ぎをして辞めた人ほど、後で成功している
対照的なことがある。これは本当に不思議なくらい、はっきりしている。
正社員を辞めてフリーランスになり、業務委託先を探して来る人がいる。その中で、前の職場を辞めるときにきちんと引き継ぎをしてきた人は、その後の独立で成功している率が明らかに高い。うちで働き、うちを辞めるときもきちんと引き継ぎをして、そこで学んだことを持って自分のジムを持つ。そういう流れで成功していく人が多い。
彼らがやっている集客は、特別なことではない。広告を出し、チラシを配り、SNSを工夫しながら更新する。基本的なことを、地道にやり続けているだけだ。
逆に、引き継ぎをまったくせずに辞めていく人もいる。一人も引き継がずに去り、辞めた後で以前の顧客に連絡を取る。そういう人が、その後うまくいっているケースは、正直ほとんど見たことがない。
つまり差は、引き抜いたかどうかそのものより、楽な方に逃げるかどうかというマインドの方にある。
自分の場合
自分は、大手の総合型フィットネスクラブに業務委託で入るところから始めた。ただ、そこは会社から顧客をあっせんしてもらえる形ではなかった。施設に出入りしていいけれど、お客さんは自分で取ってくるか外から連れてくるか。本当にフリーランスそのものだった。
だから最初から、自分で集客するしかなかった。大変だったが、大変だったからこそ、あらゆることを試した。今考えると全然刺さらないだろうと思うようなプランも作ったし、デザインの欠片もない、町内会の回覧板みたいなチラシを、必死で配った。生活がかかっているから、やるしかなかった。
引き抜きができる環境ではなかった。結果的に、それが自分をかなり強くしたと思っている。何とかしなければという感覚と、試せることは全部試すという癖は、あのときについた。必死で工夫すれば「自分の力で打開できる」それは、その後ジムを持ってからも、ずっと効いている。
独立するなら、最初の集客を自分で越えること
独立して最初の集客は、しんどい。看板がなく、資本もなく、自分のブランディングは簡単には効かないし、継続しないと結果も出ない。近道があるなら使いたくなるのは、よく分かる。
それでも、最初のお客さんを自分の力で集める経験は、独立して最初に越えるべき壁であって、避けて通ると後で必ず取り立てられる。そこを飛ばした人は、飛ばした分だけ、後で行き詰まる。
そしてこれは、業界全体の話でもある。楽な方法で回してしまう人が増えるほど、ジムはトレーナーを信用しなくなり、フリーランスに開かれていた場は閉じていく。自分たちの首を、自分たちで絞めることになる。
独立を考えているなら、辞め方をきちんとすること。そして最初の集客を、自分の力で越えること。遠回りに見えて、それが一番早い。

