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COLUMNトレーナーは、独立すべきか

トレーナーは、独立すべきか

トレーナーをやっていると、「独立したい」「いつかは自分の店を持ちたい」という人にたくさん出会う。独立を前提に話す人も多い。

自分の本音は、少し矛盾している。やりたいならやればいいし、やるなら早い方がいい、と思っている。その一方で、正直、やらない方がいい人も結構いる、とも思っている。

今日は、その矛盾を矛盾のまま、書いてみたい。

まず、「やればいい」と思う理由

独立を後押しする側の理由から書く。

パーソナルジムは、かなりスモールスタートができる業態だ。内装を手作りでまかなうこともできるし、コアな価値はトレーナー本人に依存する部分が大きいから、費用をかけなくても十分な店は持てる。資金も、自己資金が100万円ほどあれば、政策金融公庫などで開業資金はまず間に合う。つまり、やろうと思えば、たいていすぐにできる。

そして、やるなら早い方がいい。早く始めれば、うまくいったときのレバレッジも早く効く。ライフステージの問題もある。結婚して子どもができてからの独立は、なかなか大変だ。寝る間も惜しんで働ける時期と、小さい子の寝かしつけがある時期とでは、仕事に注げる時間がまるで違う。無理が利くうちに始めた方がいい、というのはある。

もう一つ、あまり大きな声では言いにくいが、トレーナー業はある程度、若い方が有利な面がある。ターゲットにもよるが、若い人がSNSで探すとき、同年代のトレーナーの方が見つけてもらいやすい。多少、人気商売的なところは否定できない。それに、年を取ると無理が利かなくなる。朝から晩まで、早朝でも夜遅くでも対応する、という気持ちが立ち上げ期には要る。「朝は弱いので10時から19時まで」では、正直、最初は厳しい。

だから、「やりたいなら、早く」——これは本音だ。

でも、独立は「やり直しにくい」決断だ

ここから、逆の話になる。

自分の中に、決断を分ける一つの基準がある。やり直せることは、やりたいかどうかで決めていい。やり直しにくいことは、慎重に考えた方がいい。買いたい服は直感で決めればいいが、就職先はそうはいかない、という当たり前の話だ。

では、独立はどちらか。初期投資が少ないので、一見「やり直せる」側に見える。でも現実には、かなり「やり直しにくい」側だと思っている。

一度ジムを出して失敗したとき、もう一度やり直して挑戦する、というのは相当ハードルが高い。よほど起業意識の高い人でなければ、「失敗したから畳んで、また挑戦しよう」とはなりにくい。20歳で失敗して30歳でまた、というケースはあるかもしれないが、独立するのはだいたい20代後半以降が多いので、次のチャレンジはどんどん難しくなる。

しかも、失敗しても原因の切り分けが難しい。立地が悪かったのか、自分の集客がダメだったのか。移転すればいいという単純な話でもない。失敗が、人生単位のマイナスとして残りやすい。だから、初期投資が軽いからといって、気軽に勧められるものではない。

「教えるのが好き」と「経営が好き」は、別だ

ここが、今回一番言いたいことだ。

トレーナーが独立を考えるとき、たいてい「トレーニングが好き」「教えるのが好き」「人に喜んでもらいたい」という気持ちが土台にある。それはとても大事なことだ。でも、現場が好きなことと、経営が好き・得意なことは、はっきり別ものだ。

ただ、ここで一つ補足がいる。パーソナルジムの経営は、実は「経営」と言うほど難しくない。在庫を持たない。オーナー兼トレーナーなら最初は人も雇わなくていい。減価償却に頭を悩ませることもなく、借り入れで自転車操業する類でもない。むしろ入金が先に来るタイプで、回数券だとまとまって入るからキャッシュフローはかなり良い。継続顧客も多い。経費も、大きいのは家賃くらい。経営として難しい部分は、ほとんどない業態だ。

じゃあ何が難しいのか。集客だけだ。

パーソナルジムはコモディティで、差別化がしにくい。だから、どう売るか、どう集めるか——ここだけが難しい。つまり、独立が成功するかどうかは、経営の良し悪しではなく、ほぼ集客ができるかどうかの一点で決まってしまう。

そして重要なのは、集客が好きかどうかは、トレーナー業が好きかどうかとは、まったく別だということだ。

「集客が好き」は、トレーナーの資質とは関係ない

集客の方法はいろいろある。頭を使うのは嫌だからとにかくチラシを配る、でもいい。SNSが得意でもWeb広告を回すのが好き、でもいい。

ただ、これらは、トレーナー業そのものとはほとんど関係のないことだ。そして、この「関係のないこと」を好きだと思えるかどうかで、独立の成否がかなり分かれる。

雇われているときから、紹介だけでどんどん予約が埋まってしまうような人なら、少人数からでも回り出す可能性はある。でも、そういう人気トレーナーの素質がないなら、集客というトレーナー業ではない部分を自分で頑張るしかない。

だから、集客が「好きだと思えない」なら、そこはかなり厳しい。放っておいて人がどんどん来ることは、まずないからだ。お店を出したら勝手に人がやってくると考えている人も少なくない。

(もう一つ、集客以外に事業計画レベルのミスもある。家賃が高すぎて採算が合わない場所を選ぶ、ターゲット客がいないエリアに出す——たとえば思い入れだけで生まれ故郷に出してしまう、といったものだ。ただ、これは向き不向きというより、最低限の計算の話なので、集客ほど本質的な論点ではない。)

自分の場合

自分の話をすると、集客なんて何も分からないまま、いきなりフリーランスとして始めた。当然、最初はかなり大変だった。

ただ、自分にはたまたま向いていた部分があった。大学生の頃、「侍魂」とかが流行っていて、手書きのHTMLでサイトを作るのが流行った時代があって、自分も周りの友人もよく作っていた。だから独立したとき、自然と「Webサイトを作ろう」と考えられた。当時は個人でもSEOで上位を取れる時代で、自分でHTMLを書いたり、SEO対策を試したりして、実際に検索で一番上に上げることができた。

出張パーソナルで検索上位を取ってお客さんがすぐいっぱいになり、ジムを出してからも、渋谷や新宿で常に1ページ目にいる、という状態を作れた。もともとパソコンが好きで、家でコツコツ何かをやったり、毎日ブログを書いたりするのが苦にならない性分だった。だから、自分には向いていた。今でもその延長で、最近もサイトを別システムに丸ごと移したり、社内用の管理システムを作ってみたり、ウェブ広告を自分で運用したり、AIも使いながら自分でやっている。

でも、これはあくまで自分がそうだった、というだけの話だ。うちにもたくさんトレーナーがいるが、そもそもパソコンを持っていない人も多い。スマホがあればパソコンが無くてもSNSくらいはできるものの、SNSも苦手という人も多い。そういったIT関係全般が苦手だと集客はかなり厳しくなる。だから、自分ができたからといって、簡単に「やりなよ」とは言えない。

独立「ありき」で考えることが、たぶん一番の間違い

ここまで書いてきて、結局一番言いたいのはこれだ。

割と多くのトレーナーが、「トレーナーの夢は、いつか自分の店を持つこと」という、どこかで刷り込まれたレールに、疑問を持たずに乗ってしまう。独立ありき、店を持つことありきで計画を立てる。これ自体が、うまくいかない一番の原因なんじゃないかと思う。

しかも、この「ありき」は、自分の内側から湧くとは限らない。むしろ外側から押し寄せてくることの方が多い。トレーナー業をやっていると、周りが当然のように「独立しないの?」「自分の店、持たないの?」と問いかけてくる。お客さんが「お金を出すから」と勧めてくる。友達のトレーナーが「一緒にやらないか」と誘ってくる。誰かが辞めるジムを「引き継がないか」と持ちかけられる。

そういう空気や誘いに触れているうちに、「自分も、そうするべきなのかな」と思い始めてしまう。これは、自分の夢ですらない。周りの期待や誘いに流されて、独立が既定路線になっていくパターンだ。そして、自分の本心から出た決断でないほど、いざ苦しくなったときに踏ん張りが効かない。

大事なのは、独立するかどうかの前に、自分と対話することだ。どんな状態になったら、自分は幸せなのか。

雇われで一流のトレーナーを続けるのも、立派な選択だ。パーソナルジムは、3年もやればだいたい要領が分かって独立できる業界ではある。でも、できることと、幸せになれることは違う。集客が好きだと思えないなら、無理に急がず、雇われを続けながら、個人で見てほしいというお客さんをレンタルジムなどで教える、という形の方が合っている人も多いはずだ。

自分の実感としても、そう思う。一人で出張パーソナルをやっていた頃は、十分に幸せだった。予約がいっぱいでない時期は自由な時間があったし、一人でやっているぶん手残りも多かった。逆にいっぱいになっても、誰かに何か言われるわけでもなく、使えるお金は多かった。それはそれで良かった。ジムを出してからも、1〜2店舗、多くて3店舗くらいで、目の行き届く範囲でやっていた頃も、これはこれで全然良かった。

正直に言えば、その後5店舗、10店舗、20店舗と増えていっても、幸福度そのものはどこを切り取っても大きくは変わらなかった気がする。むしろ規模が大きくなるほど、やることも考えることも増える。トレーナーなのに、トレーニングの現場に立つ時間は減り、指導や勉強に注げる時間も減っていく。指導の道を極める、という方向からは、明らかに外れている。もし「トレーナーとして深めること」を幸せの中心に置くなら、個人や数店舗までの規模の頃の方が、幸福度は高かったかもしれない。

規模を追うことが、幸せに直結するわけではない。これは、実際に規模を追ってきた人間としての、正直な実感だ。ただ自分の話で言え、規模が変わるとゲーム自体が変わるので、そういった新鮮さが楽しくて規模を追っている。

独立を決める前に、レンタルジムなどを使って、まず自分でお客さんを集められるか試してみるのもいい。やってみて「全然楽しいと思えない」なら、それが答えだ。店を持つ前に分かるだけ、ずっといい。

最後に、正直な但し書き

独立するか悩んでいます。という話をすると、独立した経営者は、たいてい「やればいいじゃん」と言う。自分もつい言いたくなる。でも、そこには生存者バイアスがかかっている。

うまくいった人は残って声が大きくなり、うまくいかなかった人は、表から静かに消えていく。だから世の中には「俺はうまくいったから、お前もやれ」という声ばかりが残る。その声を、そのまま真に受けない方がいい。

やりたいなら、早くやればいい。それは本当だ。でも「やりたい」の中身が、誰かに刷り込まれた夢なのか、自分が本当に望んでいることなのか——独立を語る前に、そこを一度、自分に問うてみてほしい。

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