パーソナルジムのフランチャイズに、法律の保護はない
自社はフランチャイズ展開をしていない。準備はしたが、最終的にやらないという判断をした。
その理由を書く前に、どうしても先に伝えたいことがある。トレーナーがフランチャイズに加盟するケースは非常に多い。そして、パーソナルジムのフランチャイズは、法律上の情報開示義務の対象外だという事実は、あまり知られていない。まずここから書きたい。
加盟希望者を守る法律は、あるにはある
フランチャイズには、加盟希望者を保護する法律がある。中小小売商業振興法11条により、フランチャイズ本部は契約前に「法定開示書面」を交付し、その内容を説明する義務を負う。
開示すべき項目は、2002年(平成14年)4月に15項目が追加されて、合計22項目になった。さらに2021年4月1日に公布され、2022年4月1日に施行された改正で、決定的に重要な項目が加わった。「加盟者の店舗のうち、周辺の地域の人口、交通量その他の立地条件が類似するものの直近の三事業年度の収支に関する事項」だ。
つまり、加盟希望者が出そうとしている場所と条件が似た既存店の、実際の収支を3年分見せなければならない。しかもこの「把握している」という条件は厳格で、たまたま数店舗の収支を知っている程度では足りず、契約やマニュアル、運用等によって加盟者全体を組織的に把握していることが必要とされている。経営状況が悪化した加盟者しか把握していないような状態は、「把握している」とは言えない。
これは非常に強い保護だ。モデル収支という名の願望ではなく、実在店舗の実績を出せ、という規定だからだ。
ただし、それは小売・飲食に限られる
ここからが本題だ。
この法定開示義務が及ぶのは、法律上の「特定連鎖化事業」——つまり小売業と飲食業のフランチャイズに限られる。日本フランチャイズチェーン協会(JFA)も、中小小売商業振興法が対象とするのは小売・飲食のフランチャイズチェーンであると明記している。
パーソナルジムはサービス業だ。したがって、法律上の開示義務はかからない。
学習塾、介護、清掃、整体なども同じで、サービス業のフランチャイズ本部は、法定開示書面を作る義務がない。類似立地の実績収支を見せる義務もない。加盟店数の推移も、訴訟件数も、法律上は出さなくていい。
コンビニに加盟するなら法律で守られる部分が、パーソナルジムに加盟する場合には、そもそも存在しない。これが、トレーナーが加盟を検討するときに、まず知っておくべき現実だと思う。
だから、こういう本部に気をつけてほしい
法律が守ってくれない以上、自分で見極めるしかない。加盟を検討しているトレーナーに、確認してほしいことを挙げる。
義務がないのに、法定開示書面に相当する資料を用意しているか。
法律上作らなくてよいものを、それでも作っている本部は、それだけで姿勢が違う。JFAは法定開示事項に独自の開示事項を加えた「開示自主基準」を定め、会員本部に「フランチャイズ契約の要点と概説」の作成を義務付けている。本部がJFAに加盟しているか、自主基準に沿った書面があるかは、一つの目安になる。
数字が「モデル収支」ではなく、実在店舗の実績か。
ここが最大の分かれ目だ。「うちはまだデータがないのでモデル数字だけです」という説明しか出てこないなら、ビジネスとして検証が足りていないか、情報開示の姿勢が薄いかのどちらかだ。売上だけでなく、利益まで見せてもらうこと。売上がいくら大きくても、家賃と人件費とロイヤリティを引いた後に何が残るかが、加盟者の現実になる。
最高の数字ではなく、平均と、下の方の数字を聞く。
「一番うまくいっている店で月商これだけ」は、意思決定の材料にならない。大体広告に出ている数字は最高値だったりする。知るべきは、平均でどのくらいか、うまくいっていない店はどうなっているかだ。
加盟店数の「推移」と、抜けた数を確認する。
増えた数だけを見せる資料は多い。しかし本当に重要なのは、何店舗が辞めたか、なぜ辞めたかだ。
開示のタイミングを見る。
契約直前ではなく、検討にじゅうぶん時間を取れる段階で資料が出てくるか。「意思決定が固まるまでは出せない」と言われるなら、その時点で判断材料は足りていない。契約前までくると、ここまで来たからと引き返すのが難しい。
加盟募集そのものが商売になっていないかを見る。
一番重要な点かもしれない。本部の収益構造を考えると加盟店開発するだけでも儲かる。加盟時に受け取る加盟金は、契約したその瞬間に本部の売上になる。しかもロイヤリティは通常毎月何もしなくても入ってくる。もし本部が、加盟店の継続的な成功よりも、新規加盟の獲得に前のめりに見えるなら——募集広告が派手で、成功事例ばかりが強調され、リスクの説明が薄いなら——その違和感は正しい可能性が高い。
そして、そもそも訴訟で争うのは難しい。予測と実績が大きく乖離しても、算定手法が合理的で基礎数値に客観的な根拠があれば、本部の義務違反は認められにくいのが実情だ。契約書は本部が用意したものであり、細かく作り込まれている。「後で争えばいい」は、あまり現実的な選択肢ではない。契約前に確認することが、ほぼ唯一の防御になる。
フランチャイズという仕組み自体は、優れている
ここまで注意点ばかり書いたが、フランチャイズという仕組みを否定したいわけではない。むしろ、よくできた仕組みだと思っている。
本部から見れば、出店資金は基本的に加盟店が出す。加盟時に加盟金が入り、その後もロイヤリティが継続的に入る。自己資本と融資だけでは、100店舗、1000店舗を数年で作るのは不可能だ。競合が真似してくる前に一定の面を押さえたいなら、よほど資本力のある会社でない限り、フランチャイズはほぼ必須と言ってもいい。
ただし、「他人の資本で拡大する、うまい話」と考えると本質を見誤る。資本のリスクが消えるのではなく、リスクの置き場所が変わるだけだ。他人が運営する店舗の品質と評判のリスクを、本部が背負うことになる。飲食でよく聞く「あの店は汚い」「まずい」という評判は、一店舗の問題では終わらず、チェーン全体に一気に波及する。だからスーパーバイザーを置き、管理し続けるコストが要る。
そして、ここに構造的な誘惑がある。加盟金は契約した時点で入る。加盟店が成功しなくても、本部は当座は困らない。だから「多少無理をしてでも契約させる」方向にインセンティブが働きやすい。これは誰が考えても分かる話で、実際にそういう事業者が現れやすい構造になっている。極端な場合、無理に加盟店を増やして規模を作り、最終的にM&Aで売却して終わり、ということもできてしまう。ファンドが買い、また同じように拡大させて売る、という流れも起こり得る。仕組みが悪いのではなく、仕組みがそういう行動を誘発しやすい、ということだ。
自社がやらないと決めた理由
準備はした。フランチャイズ展開を本気で検討し、資料も作った。そのうえで、今はやらないという結論に至っている。実績として、フランチャイズ展開は行っていない。
理由は3つある。
一つ目は、意思決定の自由を手放したくないから。 これが一番大きい。「今の形が完成形で、あとは拡大するだけ」と言い切れるなら話は別だが、この業界は変化が速い。時代に合わせて大胆に方針を変える必要が出てくる。しかしフランチャイズでは、多くの加盟店との合意を取りながらでなければ舵を切れない。以前、出資を受けることについて書いたときと同じ構造だ。小さく速く動けることが最大の強みなのに、その強みを最初に手放すことになる。
二つ目は、他人の人生を背負う重さ。 パーソナルジムのフランチャイズに加盟するのは、企業よりも個人——トレーナー本人であることも多い。うまくいかなければ、借金を抱えて撤退することになる。撤退までいかなくても「思ったほどではなかった」というケースは、個人には重い。リスクを正直に全部説明したうえで、それでも加盟してもらう——それが誠実な姿勢だが、正直に説明するほど加盟は集まりにくくなる。この矛盾を、自分は上手にこなせる気がしなかった。
三つ目は、そもそも「面を取る」必要性がそこまで高くないから。 パーソナルジムは、数年で一気に全国を押さえないと負ける、という業態ではないと考えている。だとすれば、無理に急ぐ理由がない。すでに12年やってきた。ここからさらに10年かけて、時代に合わせて少しずつ変えながら完成させていく——そのやり方の方が、自分には合っている。
現在は、自社のトレーナーで希望する人が加盟できる形を用意し、必要があれば出店する、という段階まで整理して進めている。外部に大々的に募集をかけて拡大する、という方向は取っていない。
だからこそ、業界に基準が要る
最後に、これは自分がこれから取り組みたいことでもある。
パーソナルジムのフランチャイズが法定開示の対象外である以上、加盟するトレーナーを守るものは、今のところ何もない。しかし本来、守られるべき情報は、小売・飲食で法律が要求しているものと、そう変わらないはずだ。類似する既存店の実際の収支、加盟店数の推移と離脱数、契約の要点、想定されるリスク——これらを開示することは、誠実な本部にとって不利益ではない。むしろ、開示できる本部かどうかが、そのまま選別の基準になる。
自分たちで、パーソナルジムのフランチャイズに関する情報開示の基準を作りたいと考えている。小売・飲食のフランチャイズが法律で満たしている水準を、この業界でも自主基準として満たす。その基準をクリアした本部を認定する。それだけで、加盟を検討するトレーナーの判断材料は、大きく変わるはずだ。
法律がないなら、業界が自分で作ればいい。安全性やスキルの標準化と同じで、これは業界全体の信頼を上げる話だと思っている。
繰り返しになるが、フランチャイズという仕組みが悪いわけではない。資本力なしに拡大するには、非常に優れた方法だ。ただ、パーソナルジムという業態では、加盟する側が法律に守られていない。この非対称を知ったうえで、自分の目で確かめてから判断してほしい。

